馬の繁殖

馬の繁殖の基本は優秀な競走成績を残したサラブレッド同士がかけあわされて行われます。
競馬はギャンブルの側面もありますが、優秀なサラブレッドを選定するために行われているという意味もあるため、優秀な成績残した馬が繁殖にあがるのは自然なことです。

現役時代の成績が基本となりますが、それと同じぐらいに重視されるのが血統になります。
サラブレッドの歴史は血統の歴史と言っても過言ではなく、より強いサラブレッドを作り出そうと多くの人たちが創意工夫を続けてきました。
それが現代にまで伝わる血統となっているだけに、血統を重視されることも少なくありません。
競走成績自体はイマイチであっても、その家族が抜群の成績を残していたり、あるいは繁殖成績が優秀な場合には血統を重視されて繁殖にあがることもあります。
その逆にせっかく優秀な成績を上げたとしても、血統の悪さを嫌われて子孫を残すことができないというケースもあるのです。
経済動物である以上は生産者としても売れなければ意味がありませんから、現役時代の成績が優秀でも血統が見劣りして敬遠されがちな配合よりも、成績が並でも血統の良さで人気になりやすい配合をするのは仕方のないことと言えるでしょう。
しかし、このような理由があることからある血統が爆発的に広まると、それが仇となって配合できる組み合わせが少なくなってしまいある時期を境に急激に勢力を落としてしまうこともあるのです。
この代表的な例として、セントサイモンの悲劇があります。

馬の繁殖

相性を考えてかけあわされることもあり、父はスピードが豊富でも持久力に欠ける、逆に母がスピードに乏しいものの豊富な持久力があると言った場合には、互いの長所をによって短所を打ち消す産駒を期待して配合されることもあります。
ただし、この方法は互いの短所を持った産駒ができてしまうこともあり、サラブレッドの生産の難しさを物語るものとなっています。

血統的な相性の良さを考慮して配合されることもあり、これをニックスと呼びます。
この方法はある程度実績が出てからでなければ相性がいいのか悪いのかを判別することができません。
ニックスの例としては2000年代では、母父メジロマックイーンの産駒にステイゴールドをつけると優秀な産駒が誕生をするとされていて相性のいい組み合わせに挙げられています。
代表産駒には夏冬のグランプリを優勝したドリームジャーニーにクラッシック三冠のオルフェーブル、GI7勝を挙げたゴールドシップと錚々たる名前が連なっています。

セント サイモン の 悲劇

サラブレッドの歴史を語るうえにおいて、後世にも偉大な影響を与えたこと事実からもセント サイモンの名前を挙げないわけにはいきません。もっともデビュー前は見栄えのしない外見や注目をあつめる血統でもなかったことから、活躍を期待されていたわけではないようです。かてて加えて元の馬主が死亡したこともあり、当時のルールにしたがってクラシックレースに出場することは許されませんでした。そのかわりに下級戦やマッチレースなどの地味な舞台では、着実な戦績を収め、10戦無敗の記録を打ち立てることから注目を集めるようになります。特筆すべきはその出走内容で、ほとんどのレースで圧勝を収めたことで、アスコットゴールドカップやグッドウッドカップなどの大舞台では20馬身以上の差をつけて勝利しています。クラシックレースへの出場こそなかったものの、グッドウッドカップではクラシックホースを圧倒しており、実力は折り紙つきでした。

セント サイモン の 悲劇

1886年には競争馬からは引退し、種牡馬としての生活を開始することになります。競争馬でも優秀な戦績をおさめていますが、セント サイモンは偉大なサラブレッド種牡馬との認識でサラブレッドの歴史に絶大な影響を与えることになります。種牡馬のなかでは空前絶後の成功を収めたといっても過言ではなく、牡馬と牝馬を1頭ずつの三冠馬を輩出し、1900年にはクラシックレースを全勝するほどの成績を残しました。その血統はイギリス国内はおろか、世界各国に拡散しサラブレッドの不世出の爪あとを刻むことになったといわれるほどです。27歳のときにセント サイモンは心臓麻痺で一生を終えますが、その後半世紀をまつことなく、そのオリジナルの血統は絶滅し姿を消しました。現在では血統を引き継ぐサラブレッドは存在しないとみられています。

サラブレッドの歴史に絶大な影響を与えたにもかかわらず、その血統が継承されないまま短期間で途絶えてしまったという事実は、セント サイモン の 悲劇と呼ばれてきました。実に現存するサラブレッドのほぼすべては9-13%程度、セント サイモンの血流をもつといわれるほどです。

オリジナルの血統のサラブレッドが隆盛を極めたのは、1900年代初頭までで1908年から1914年にかけて優秀な種牡馬が相次いで死亡、残存した種牡馬も輸出や失敗などで優勝馬を排出することができなくなります。セント サイモン の 悲劇の原因は優秀な血統が行き渡ることで近親交配を回避するべく、満足な交配機会を得られなくなったことが指摘されています。